膀胱がんについて

1)膀胱がんとは

 尿は腎臓で作られ、腎盂(じんう)、尿管を通って、膀胱に到達します。膀胱は下腹部にあり、尿を貯留し(蓄尿機能)、適切に排出する(排尿機能)働きがあります。
 膀胱がんは膀胱の上皮(粘膜)に発生するがんです。男性に多いがんで、原因として喫煙や慢性炎症が挙げられます。

2)膀胱がんの症状

 膀胱がんの症状として最も多いものは、血尿です。一般的には「痛みを伴わない血尿」であることが多いです。黒っぽい血のかたまりが出る場合もあります。2~3日で血尿が自然に止まり、尿がきれいになることもあります。しかし、そのような場合でも膀胱がんの可能性があり、早めの受診が必要です。なお、尿路結石やひどい膀胱炎などでも血尿になることがあります。また、膀胱がんの中には、尿が近くなったり(頻尿)、排尿時に痛みを感じる(排尿時痛)など、細菌による膀胱炎とよく似た症状を示すタイプもあります。膀胱炎と思われる症状でも、なかなか治らない場合や、何度も繰り返す場合は、膀胱がんの可能性も考慮する必要があります。

3)膀胱がんの診断

 膀胱がんの可能性が考えられるときは、尿検査(細胞診)と膀胱鏡検査をおこないます。尿検査では、血尿や炎症の評価と、がん細胞の有無をチェックします。膀胱鏡検査は、膀胱がんの診断のために必須の検査です。膀胱鏡(膀胱の内視鏡ファイバースコープ)を尿道から膀胱へ挿入して膀胱内を観察する内視鏡検査で、通常は外来通院で行います。場合によっては、超音波(エコー)検査やCT検査・MRI検査などの精密検査を追加します。

4)TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)

 これ以降の過程では入院が必要です。膀胱がんに対する手術治療として、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を行います。全身麻酔(あるいは腰椎麻酔)が必要です。膀胱の中を専用の内視鏡で観察しながら、がん病変を電気メスで切除します。切除した組織は病理検査に提出されます。病理専門医が、顕微鏡を用いてがんの種類や深さ(浸潤度)を確認します。
 再発を予防する目的で、手術当日あるいは翌日に膀胱内に抗がん剤を注入することがあります。

5)膀胱がんの種類

膀胱がんは、大きく分けて二つの種類があります。

A)表在性がん(筋層非浸潤がん)
B)浸潤性がん(筋層浸潤がん)

どちらに該当するかは、外来での膀胱鏡検査だけでもおおよその見当がつくことが多いですが、正確にはTURBTで切除した病変の病理検査で決定します。

筋層非浸潤がん

筋層非浸潤がん

筋層浸潤がん

筋層浸潤がん

A)表在性がん(筋層非浸潤がん)

 膀胱の表面にとどまり、膀胱の筋層(膀胱固有の筋肉)まで到達していないがんです。「乳頭状表在性がん」と「上皮内がん」が含まれます。
 乳頭状表在性がんはカリフラワーあるいはイソギンチャクのような形をしています。多くはおとなしいがんですが、放置すると血尿が悪化し、ときに進行して浸潤性がんとなることもあります。乳頭状表在性がんの場合にはTURBTだけでがんを切除できる可能性が高く、この場合TURBTは診断と治療を兼ねることになります。
 上皮内がんは、平坦ながんが、膀胱の粘膜だけに存在しているものです。病理検査で上皮内がんと診断した場合は、BCGを用いた膀胱内注入療法(後述)がおこなわれます。

B)浸潤性がん(筋層浸潤がん)

 膀胱の筋肉の層まで浸潤した(食い込んだ)がんです。がんは膀胱の壁を貫通して膀胱の外側の組織へ浸潤したり、リンパ節や肺・骨などに転移する可能性があり、生命の危険に直結するタイプのがんです。このタイプのがんは、膀胱粘膜にとどまる表在性がんとは異なり、TURBTのみで完全に切除することは不可能で、通常は膀胱全摘除術が適応になります(後述)。

6)表在性がんの治療:TURBTと膀胱内注入療法

 乳頭状表在性がんは、TURBTだけでがんを切除できる可能性が高く、TURBTは診断と治療を兼ねることになります。しかし、膀胱内に再発しやすいという特徴があります。がんが多発している場合や、再発がんの場合、また病理検査で悪性度がやや高いと判断した場合など、再発のリスクが特に高いケースでは、抗がん剤や BCG(弱毒化したウシ型結核菌)を膀胱に注入する「膀胱内注入療法」を、TURBTの後に追加することがあります。膀胱内注入療法は、毎週1回の注入を、6~8回繰り返すことが一般的です。
 平坦ながんが粘膜のみに存在している「上皮内がん」の場合は、BCGを用いた膀胱内注入療法がおこなわれます。
 乳頭状表在性膀胱がんは転移を生じることはほとんどなく、致命的になることはまれです。ただし、このがんは膀胱内に多発し、何度も再発することが特徴です。BCGを用いた膀胱内注入療法をおこなっても再発した場合は、筋層浸潤性がんと同様の経過をたどることがあり、膀胱全摘除術が必要になることがあります。

7)浸潤がんの治療:膀胱全摘除術と尿路変向(変更)術

 このタイプのがんは、膀胱粘膜にとどまる表在性がんとは異なり、TURBTのみで完全に切除することは通常不可能です。全身CT検査などの結果、転移が無いと判断した場合は、根治(完全に治ること)を目指して膀胱全摘除術が適応になります。

膀胱全摘除術について

 膀胱全摘除術は、筋層浸潤性の膀胱がんに対して、最も一般的におこなわれる治療法です。一部の筋層非浸潤性がんにも行われることがあります。
 全身麻酔です。下腹部を切開して、膀胱を摘出します。男性では前立腺と精嚢を同時に摘出します。がんの状態によっては尿道(ペニスの中の尿が通る部分)も摘出することがあります。女性では通常、子宮と腟壁の一部、尿道を摘出することが一般的です。膀胱の摘出と併せて、骨盤内のリンパ節の摘出(リンパ節郭清)を行います。

尿路変向(変更)術について

 膀胱を摘出すると、腎臓でつくられた尿を何らかの方法で体外に排出する必要があります。そのための手術が尿路変向(変更)術です。主な尿路変向としては下記が挙げられます。

  • 回腸導管
  • 自排尿型代用膀胱(新膀胱)
  • 尿管皮膚ろう
  • 腎ろう

この中では回腸導管が最も多く実施されています。回腸導管や尿管皮膚ろうでは、腹部に尿排出口(ストマ)を開口させ、集尿器(パウチ)を皮膚に常時貼ることになります。がんの広がりや体の状態によっては、パウチの不要な自排尿型代用膀胱を選択することもあります。尿路変向術は、術後の日常生活に大きく関わってきますので、事前に担当医や看護師の説明を聞いて十分理解することが大切です。

8)転移性がん

 膀胱がんが、他の臓器に転移した状態をいいます。膀胱全摘術後の経過観察中に転移が発見されることもあれば、膀胱がんの診断がついたときに既に転移が発見されることもあります。膀胱がんが転移しやすい臓器としては、リンパ節、肺、骨、肝臓などがあります。
 転移性がんの場合には、全身抗がん剤治療(化学療法)が行われます。GC療法(ゲムシタビン+シスプラチンの2剤組み合わせ)が、膀胱がんに対して最も一般的な化学療法です。腎臓の働きが十分ではなく副作用が強く出ると予想されるときは、シスプラチンの代わりにカルボプラチンを用いるGCa療法(ゲムシタビン+カルボプラチンの2剤組み合わせ)を行うときもあります。また、以前はMVAC療法(メソトレキセート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチンの4剤組み合わせ)が行われていました。
 抗がん剤治療の副作用としては、吐き気、食欲不振、白血球減少、血小板減少、貧血、口内炎などが起きることがあります。なお、全身抗がん剤治療は筋層浸潤性がんに対する膀胱全摘手術の前後に補助的に使用されることもあります。
 また、骨などの転移部位の痛みを和らげるために、放射線治療をおこなうこともあります。